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第二話

目の前には、服があった。
大学四年生の夏、僕は電車の中でファッション・ショーをやることに決めた。
吉祥寺と渋谷をむすぶあの電車で。

1999年7月4日、ショー当日。大学の友人や後輩たちがスタッフとして集まってくれた。その中には、当時一年生だったアンリアレイジの森永もいた。
集合場所は、吉祥寺駅。普段人気のない日曜夜の上り列車ホームは、ショーを観に来てくれた人たちでごった返していた。
190円の乗車券が、あのショーのチケットだった。
音響設備なんてないので、ショーの音楽はラジカセから流すことに。そのラジカセは森永たちが持ってくれることになった。

21時47分、定刻通り、お客さんと僕らを乗せて電車が走り出す。
電車内の通路をランウェイに見立て、モデルの女の子たちがよろめきながら車内を歩く。スポットライトはもちろん無いんだけど、車内の蛍光灯にぼんやり照らされた女の子たちは、不思議とまぶしく見えた。
日常の中の非日常。面白きこともなき世を面白く。
服を使っての僕らの精一杯のいたずら書きだった。

ショーが終わった直後、僕は鉄道警察に捕まって、取り調べ室でこっぴどく怒られた。そりゃそうだ。後日、鉄道会社の本社まで赴き、あらためて謝罪をして、なんとか許してもらえた。僕は犯罪者にならずに済んだ。

僕の未熟な服は、あの日あの場所に、置いてけぼりにされてしまった。
あの日を境にして、別に世界なんて変わらなかった。ただひとりを除いて。

季節は移ろい、1999年の夏が終わった。
やがて森永も服をつくり始めた。

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