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第三話

2000年春、僕は早稲田大学を卒業し、文化服装学院に入学した。
大学時代はろくにしなかったバイトも、学費の為に頑張った。
クラスは女の子ばかりという人生初の環境に戸惑いつつも、大学時代にまったく勉強しなかった反動なのか、文化の学生時代はとにかく真面目に勉強した。23歳、出遅れてしまったという焦燥感を感じながら。
授業が終わりクラスメートが帰った後、学生ホールに独り残り、パターンを引いた。校内の消灯時間になっても止めなかったので、警備員さんからは「早く帰りなさい」と毎回のように注意されてた。終いには、僕の姿を見るなり、何も言わず電気を消されたこともあったけ。悪いのはもちろん僕なんだけど、何故だかあの時は警備員さんにキチンと謝ることができなかった。ひねくれた情熱の矛先は、真っ暗闇のなか、どこに向けられていたんだろう。

2000年秋、僕は大学の後輩たちが主催した合同ショーに参加させてもらった。ショーが終わった後、もっとああすればよかったこうすればよかったと後悔にまみれて楽屋でぼーっとしてると、「あなたが神田くん?」と、ある女性が僕のところにやって来た。歳はおそらく僕の母親と同じぐらいで、黒いサングラスをかけていた。その人は、「よかったわ」とだけ言い残し、名刺を置いてそそくさと帰ってしまった。名刺には「装苑編集長・関直子」と書いてあった。あまりの驚きに、思わず二度見してしまった。僕は装苑が大好きだった。毎月欠かさず買って読んでいて、気に入ったページがあれば切り抜いて、部屋の壁にぺたぺた貼ったりするぐらいに。

憧れてた向こう側の世界。その扉は、ある日突然、僕の目の前に現れた。まるで、どこでもドアみたいに。

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